JP11

DNA中において活性化された

置換フェニルスルフィド誘導体を用いた

クロスリンク反応に関する理論的研究 II

(山口大工・九大薬)

○杉山 久美子*・佐々木 茂貴・堀 憲次

 


 

1.序論

合成オリゴ核酸は、生体内においてm-RNAあるいは二本鎖DNAと複合体を形成することによって特異的に遺伝子発現の阻害を行うことが可能であり、新時代の医薬品への発展が期待されている。この高い阻害率を実現するために、核酸間を共有結合で固定化する架橋反応の適用が検討されている。この場合、目的部位のみで活性化される高効率な反応の開発が求められる。佐々木らは、これらの条件を満たす反応を見出した1)。興味深いことに、この反応はモノマー同士では起こらないが、二本鎖DNA内ではグアニンの安定なフェニルスルフィド誘導体が自動活性化され、ビニル基置換を経て架橋反応をすることも明らかになっている。この架橋反応に至るまでには、Direct EliminationOxidationといった様々な経路が検討されている。フェニルスルホキシド誘導体を用いた反応は、フェニルスルフィド誘導体を用いた場合より生成物の収率が良いという結果を得ている。また、置換基Xについての研究では、パラ位に電子供与基が置換したとき収率が増加し、逆


に電子求引基が置換したとき減少するといった結果を得ている1)

 

 

このように、フェニルスルホキシド誘導体を用いた反応やこれらの置換基効果などに関する様々な研究も進んできているが、その反応機構や活性化の要因などについては明確な実験的証拠は得られていない。これまで我々は、図1に示したモデル分子を用いた研究を行ってきた。

架橋反応の前反応として図1に示したような様々な経路が考えられる。これらについて塩基のみのモデル反応を置換基効果も含めた検討を行った。実験条件下(pH 5.0)において架橋反応の前反応である1から3への反応では、反応物の周辺にH3O+が存在すると考えられる。そのため、H3O+がプロトンソースとして反応へ関与する経路について解析した。この結果H3O+が関与しない経路(Path APath B)では活性化エネルギー(Ea)は約60kcalmol1と高いのに対し、H3O+が関与する経路(Path CPath D)ではその値は約40kcalmol1と約20kcalmol1も小さい値が計算された。

塩基のみに対して計算された反応のEaは、実験条件から予想される値に比べれば高く、DNA鎖内の反応では、反応場としてのDNA鎖の効果が大きく影響していると考えられる。

 

そこで本研究では、DNA中での反応を検討するため、図3に示す三量体及びそれに反応部位を組み込んだ系での反応の解析を可能とする方法について検討した。

 

2.計算方法

反応物、遷移状態、生成物の構造についてそれぞれGaussian98プログラムを用いて非経験的MO計算を行った。

 

 

 

3.結果と考察

まず、図3のような配列を持つ三塩基対モデルについて、(B3LYP/6-31G*UFF)レベルのONIOM法により反応物1の最適構造を得た。この反応部位は、塩基のみの反応物1の安定構造とは異なり、図2に示したようなTSに近い構造、SPh基が塩基対から脱離し易い歪んだ構造であった。この結果から、三塩基対モデルにおいて反応物の反応部位は、DNA鎖の影響を受けてTSに似た構造をとることが示唆された。このことは反応全体のEaの低下を予想させる。

同様の方法でPathATS構造の最適化を試みたが、結果が得られなかった。そのため、ONIOM (B3LYP/6-31G*:AM1)TSの最適化を試みた。図2に示した塩基のみのTS構造の反応部位と得られた三塩基対モデルでの構造を比べると、前者が距離a=1.520Å、b=1.774Åに対し、後者はa=1.512Å、b=1.783Åであった。また、反応部位のC-C-S-C二面角もそれぞれ124.1°と120.7°で両者の構造はほぼ同じであった。次にEa算出のためAM1法を用いた反応物1ONIOM計算を行ったが、プログラム実行時にエラーが発生し、この方法では反応の解析の継続が困難となった。また、AM1法を含むONIOM法で得られた構造では、塩基中のアミノ部分の幾何構造にも問題があることが判明した。そのため、反応部位のみ6-31G*基底、その他の部分はSTO-3G基底を用いたB3LYP(以下、混合基底法と呼ぶ)により、PathAの解析を行うことを検討した。

混合基底法により得られた、二つの反応物1を図4に示す。A1は、反応部位が塩基のみの場合のTSに近い構造をしているが、三塩基対全体がらせん構造ではなく少し歪んだ構造をしている。一方A2は、反応部位の構造が塩基のみの場合のTS構造とは大きく異なっていたが、三塩基対はらせん構造を保っている。この構造は、A1より約60kcalmol1安定であると計算された。これら二つの構造について、反応の解析を進めると共に、三塩基対モデルのより信頼のおける反応の解析法を開発中である。

 

 

4.参考文献

1)     Takeshi Kawasaki, Fumi Nagatsugi, Minoru Maeda and Shigeki Sasaki,2000 Oxford University Press,Nucleic Acids Symposium Series No.4,129-130

2)     Shigeki Sasaki, European Journal of Pharmaceutical Sciences,2001,13,43-51

3)     Fumi Nagatsugi, Takeshi Kawasaki, Daisaku Usui, Minoru Maeda and Shigeki Sasaki, J.Am.Chem.Soc.,1999,121,6753-6754